漫画の描き方|ギャグ漫画がストレスな世代? #024
今回は興味深い洞察からのご質問です。ジャンプ+に掲載されていたギャグ漫画の感想に「主人公がかわいそう」というものが多かったということでした。これは「読者のストレス耐性が減っている」からなのか、どう考えるか?というご質問でした。
具体的にはこちらの作品ですね。
『カメラを止めろ』フジオユウマ先生の作品です。
おじさん俳優の主人公がなぜか子役をやらされる不条理漫画ですね。とても面白かったです!
おじさん俳優が撮影現場でいろいろ酷い目にあって(まず子役をやらされているし)ひたすらカメラを止めていくという内容ですね。その様子が笑えるのですが、興味深いのはそこに「かわいそう」という感想が多かったということです。
そもそも僕はこの十年間、編集部でお話しする中で「読者がストレスにどんどん弱くなっていっている」ということをよく聞きました。娯楽に慣れた世代は強いストレスがあると読まなくなってしまう。なんでお金を払ってこんな辛い思いをしなくちゃいけないんだ…と、離れてしまうのだそうです。
ストレスとギャグ耐性、どの程度関連があるでしょうか。
おそらくストレスには共感性の問題が絡んでいる
このことを語るにはまずジャンプなどいまの少年誌がどんどん共感型の作品が増えて来ているという背景を知ってもらう必要があります。
漫画の感情の伝え方にはそもそも大きく二種類あって、それを東京ネームタンクでは「共感型」と「興味型」と呼んでいます。
昔の少年誌は「興味型」が多く、主人公の気持ちを読者が興味を持って予想して、読者自身の中に感情を作っていくタイプの描かれ方が主流でした。
悟空もルフィもケンシロウも冴羽獠も、強敵の前に不敵に笑って、今どんな気持ちなの?と読者の興味を引きますよね。
一方少女漫画は昔も今も「共感型」が多く、主人公の想いをモノローグや分かりやすい表情などによってダイレクトに読者に伝えていきます。
しかし近年では少年誌もこのように少女漫画に多かった技法、「共感型」の伝え方の作品がとても多くなっています。『鬼滅の刃』も『ヒロアカ』も主人公が強敵を目の前にして、おそれおののきガクブルし、その想いを読者に伝えてきますよね。
もしかしたらこのことが影響し、今の読者は主人公に「共感」して読む読み方に慣れているのかもしれません。
ギャグは他人として見下すから笑えるという論調
笑いというのは他者を見下している、という話を聞いたことがあるでしょうか。これはそういうことでもあるのかもしれませんが、まず見下す見上げるというよりも、自分とは距離のある「他者」であることが大事なのだと思います。
みんな自分ごとだと必死になるので笑えないんですよね。今まさに自分が生きるか死ぬかの瀬戸際だという時に当然笑ってられないですから。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている他人を、ちょっと安全な遠くから見ているから、楽しむ余裕があるのだと思います。
そういうことから状況的に自分が優位に立つことは多いかもしれませんが、そこに蔑みや憐みの感情がある必要はまったくないと思います。
たとえばペットがエサを必死に食べている姿に「ふふっ」と笑ってしまう感覚、ここに自分優位の嘲笑が入っている、というのは言い過ぎだと思います。そこは愛でいいんじゃないでしょうか。愛しい気持ちは笑顔を生む。
話を戻して、本来ならこのギャグ漫画も主人公の俳優に共感していく見せ方ではなく、あくまで他者として愛したり笑ってほしかったのだと思います。
しかし今の読者は「共感性」が高く、あくまで自分として読む漫画の読み方に慣れている。自分が様々なトラブルに巻き込まれていると感じすぎてしまう。
これが「かわいそう」の原因ではないでしょうか。
共感性が上がっているのなら、対策方法もある
今回の話をまとめると
ギャグ漫画に対し、読者のストレス耐性が減っているというよりは、共感性が上がっている。
ということがありそうです。
主人公の表情のアップなどを入れていくと、より気持ちが読者に伝わっていきます。またキャラクターと目線が合うことも、読者がその物語の中に強く引き込まれます。ですので逆に…
・とくに決めゴマなど、ロング目のカットを多くする
・キャラクターと目線を合わせない
など、テクニックとしてキャラクターと距離を置き、他者としてかわいく見せていくということも可能です。キャラを眺めている感覚がポイントです。
コマ割りはその漫画家の作風にも依るものですので、読者に合わせろとは思わないのですが、次の世代の読者の笑顔を作るために、知っておいてもいいのかもしれませんね。
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