漫画の描き方|週刊少年ジャンプ編集者の呪文を解読してみた
NHKの番組「のぞき見ドキュメント 100カメ」で100台のカメラで少年ジャンプ編集部を観察するという企画が9/17夜に放送されました。
※ 9月24日に再放送があるそうです↓
東京ネームタンクが運営する「マンガ新連載研究会」のチャットルームでも話題になっていて、編集部の中ってほんとにブラックボックスなので、僕も視聴しないわけにはいかないと思い久々にTVに正対しました。
編集者からの怒涛のアドバイス
全編に渡り興味深く…語るに尽くせないのですが、そんな中の1シーン。持ち込みに来た新人漫画家志望者が編集者と打ち合わせする場面がありました。
ネームを読み終わって、一呼吸置いてからのマシンガンアドバイス。
大体漫画ってファンタジー許されるの1つまで2つ目のファンタジーというご法度を使った上にしかも感情移入のポイントになるモチベーションの所にそれを置いてしまっているから非常に読みづらい 僕はやっぱりキャラクターの女の子のリアクションを見たいし主人公との会話を見たいし女の子との一番いいシーンをしっかりとした感情線と間尺でもって見たい それを直せるのであればラブコメを作っていい
<出典> のぞき見ドキュメント 100カメ ©️NHK
肺活量!
そのあとも「なにか疑問質問異論反論ある?」と聞かれて「ないです…」って答えてたけどそこは勇気出して「マホカンタ!」って叫んで欲しかった。
というわけでじっくり解説します
先に出したマンガ新連載研究会でカウントしていますが今日本の漫画連載って年間2000に迫る数が始まっています。作品の数だけ漫画家も増えている…と考えると編集者が一人に割ける時間が少なくなるのもしかたないことなのかもしれません。番組でも出てましたが、「来た持ち込みは全て断らない」
とてもありがたいことですし分業も大事ですよね!
解説はストーリーに特化した漫画研究組織「東京ネームタンク」がしっかりと承ります。
◎ ◎ ◎
ファンタジーが二つ入るのはなぜご法度なのか
そもそもファンタジーが二つ入ると言うのはどういう状況でしょうか。
他の言い方として「漫画でつく嘘は一つだけにする」とも聞きます。これはほとんど同じことを指していると思います。
分かりやすく明快なファンタジー(嘘)が二つ入った物語を考えると、こんな感じです。
「過去にタイムトリップした。それはそれとして僕は透視の能力があるのでこの能力を使って現代に戻ろう。」
面白そうですけどね。なぜこれが良しとされないのかと言うと、これは漫画の企画に関わる部分だからです。まず漫画は大きな一本の企画の芯があります。それは期待感だったりピンチ感だったり読者が先を読みたくなる仕掛けです。
この例の場合で言うと「過去にタイムスリップした!」ということだけでも企画になり得るし、「透視の能力がある!」というだけでも企画ができます。そのどちらを読者に楽しませるか、結局のところ二つあるとブレてしまうのですね。
「隕石が落ちて来て地球が滅亡する!」「その隕石の裏に地球を侵略するUFOもいる!」というとなんだかてんやわんやでどの話に集中して良いか分からない…そんな感じです。
モチベーションにファンタジーを置いている
これが編集者の言葉をどう受け取るか非常に難しい部分だと思います。
この言葉からは「モチベーションにファンタジーがあるから問題である」と受け取りかねないですよね。しかし本質はそこではないはずです。
「ひとつながりの秘宝ワンピースを探したい」「火影になりたい」
どちらも動機にファンタジーが置いてあります。大ヒット作品ですし、それ自体に問題がある訳ではありません。
問題は「モチベーションにファンタジーが入っていると感情移入しにくい」ということです。上の例で言えば「ワンピース」も「火影」も架空の存在なのでそれがいかに魅力的かしっかり伝えないと、それを欲っせないという難しさがあり、その指摘をしている、こういうことではないでしょうか。
一億円欲しい、漫画家になりたい、ということであれば共感は早そうですよね。しかしケームケームクンパッツを使いこなす!と言われても「えっ…」ってなります。
しかし繰り返しますがこれは難易度が高いだけで丁寧にやれば魅力的に見せることも可能です。ネームタンクの講義でもよく確認しますが、原作に問題があるのか演出(見せ方)に問題があるのか、は分けて考えないと混乱します。この場合は演出に力量がいる(そしてそれが足りないと判断された)というだけでアイデア自体悪くない可能性が多々あります。
「僕はやっぱりキャラクターの女の子のリアクションを見たいし主人公との会話を見たいし女の子との一番いいシーンをしっかりとした感情線と間尺でもって見たい」
長い長い長い…
こちらは何を言われているのでしょうか。
まずこの話が、ここまで言及してきた「モチベーション」についての問題の続きなのだと気づきたいですね。
編集者の言葉を裏返すと現状では
「女の子のリアクションがなく」
「主人公との会話がなく」
「しっかりとした感情線になっていない」
となってしまっているということです。この状況の要因が前述の「ファンタジーに置いたモチベーションにある」という指摘です。
しかし「問題」は指摘してもらっても、「一体なぜそうなってしまうのか」ということは聞けていないので、現状を引き起こした「原因」を自分で把握しなくてはなりません。これは相当慣れてないと難しいのではないでしょうか。
(ちょいちょい宣伝を混ぜたくなる…これは「まんが奨励会」スクリプト基礎コースでまさに取り扱っている内容です…)
これはネームを読んでない以上予想でしかないのですが
「主人公の動機(モチベーション)がヒロインに向かっていない」
ことが原因の予感がします。ファンタジーという言葉も出ていますし、主人公の「動機・したいこと」がそのファンタジーに起因する何かに「直接」向かっているのではないでしょうか。
例えば
・ファンタジースキル(影分身など)を身に付けたい
・ファンタジーアイテム(ドラゴンボールなど)を手に入れたい
などです。
ラブコメでなければこれでもいいんですけどね。
ラブコメの場合以上のような形だと女の子を魅せにくいと思います。
この形だとヒロインとの感情のぶつかり合いが生まれないことで、結果「女の子のリアクションがなく」なります。当然主人公はファンタジー要素に集中するので女の子は不要となり「主人公との会話がなく」なります。
「しっかりとした感情線」とは、お互いの感情の起伏を指していると思います。感情線という言葉を理解するために「感情線がない」とはどういう状況か想像してみてください。きっと目的に向かって一直線!というような「感情一直線!」という状況は「しっかりとした感情線」から遠いと思います。
ヒロインとの感情の対立がないことにより、目的に対して壁やハードルがなく、目的まで一直線という状況となり、結果「しっかりとした感情線になっていない」と言われてしまうのではないでしょうか。
ここまでの要点をまとめると…
結局のところ「主人公のモチベーション作りに問題がある」と終始言われているに尽きます。
さあアドバイスの意図を読み解けたらしっかりと対策ができますね。
答えの一つとしては「主人公のしたいこと(モチベーション)をヒロインに向かわせる」ことです。
たとえばこんな感じです。
主人公「このファンタジースキルを使いこなすためにはヒロインの協力が欠かせない!なんとか手伝わせたい!」
ヒロイン「はあ!?なんでこんなやつのために!悔しいから手伝うふりしてスキルを私のものにしてやる!」
このあとにはどんな展開があるでしょうか。きっとはじめは対立していた二人ですが、その心の深い部分に触れ合うことで、少し見直したり理解することもあるでしょう。そう言ったところもまたストーリーの魅力です。
「間尺でもって見たい」という言葉は、そういうしっとりとした感情の機微も、間と尺をしっかり取って、感じ、楽しみたい、という希望の現れではないでしょうか。
編集:「それを直せるのであればラブコメを作っていい」
当然ですがマンガを描くのは許可制ではないので、安直に煽られたと思う前に何か省略されたワードがあるんじゃないかと確かめたいですね。
この場合は
「それを直せるのであれば(ジャンプで)ラブコメを作っていい」
とも受け取れます。
「これができるようになったらジャンプでもラブコメを描かせられるよ」と言うことなら、今回の課題さえ乗り越えちゃえば可能性あるわけです。強引な解釈かもしれませんがそう信じて頑張っちゃいましょう!!
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週刊少年ジャンプ編集者の呪文解読まとめ
■ファンタジーを二つ入れないのは企画がブレないように
■モチベーションにファンタジーを入れるときは丁寧な演出が必要
■特にラブコメの場合、ヒロインとの感情の対立を意識する
■凹まされそうな時もなんとか前向きに捉えて頑張る!
編集者の言葉の解読って難しいですよね。表面上の言葉に惑わされず
「なぜそれを言わせてしまったのか」考えることが何よりのポイントと思います。
長文最後までありがとうございました!
初投稿が明け方になるとは…(番組の後すぐ書き始めました)
今後も更新していきますので、漫画の深い理解のためと初投稿の記念に、
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最後になってしまいましたがNHKさん素晴らしい番組をどうもありがとうございました!
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