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【再掲】喜怒哀楽を超えた万感の感情体験がある『アクタージュ』

2020年4月25日「マンガ新聞」掲載
「マンガ新聞」が運営終了したためこちらに転載します。

こんにちは! 東京ネームタンクのごとうです。最近はマンガスクリプトドクターとしての活動もしています。そして最近はnoteもほぼ毎日更新しています。より詳しいマンガ技術を知りたい方はこちらもご覧くださいね。

こちらでは漫画の技術的な側面から、いまオススメの漫画を紹介して参ります。今日取り上げるのは……

『アクタージュ』

週刊少年ジャンプで連載されている役者の漫画です。アニメ化直前と噂されるくらい大人気の作品ですね。

こちらの作品、第1話掲載時からとても心を掴まれてしまったのですが、その理由とともに、今回はアクタージュをマンガ文法的に解説していきたいと思います。

漫画はそもそも「感情」を描いていくメディア

東京ネームタンクの講義の中でも、何度も繰り返しお伝えし続けていることがあります。

それは漫画は「感情」を楽しむエンターテイメントであるということ。

なぜ繰り返すかというと、どうしても漫画に対して、そこにある「できごと」を楽しむものだという思い込みが強いからです。

多くの漫画初心者の方は、漫画の中で起きる「できごと」に注目しています。

妹が鬼になってしまったり、ゴム人間になってしまったり、死神代行を頼まれたり、人が死ぬノートを拾ったり、そういう興味を引く状況を描くことにばかり気を取られてしまいます。

しかし実際に読者が読んで楽しいのは、その「できごと」ではないんですね。

そういう状況に巻き込まれてしまった、そこにいる生きた人間の「感情」にこそ興味がある。

妹が鬼になってしまった少年が、どんな思いをし、どんな行動を取るのか。

そこにある、想い、気持ち、感情をこそ、読者は見たいと思うものです。その感情の表現にいかに比重を持ているか。

ここがまず漫画を分かっているかどうかの境になります。

本作はまさにその「感情表現」がテーマ

本作に限らずどんな漫画でも、まさに漫画のキャラクターは「役者」です。あらゆる表情、身振りや手ぶりなどの仕草やポーズ、そしてセリフ、あらゆるものを使って感情を表現します。

また、漫画の場合は実はリアルな人間よりも、さらに表現の手段を多く持っています。

たとえば極度に記号化された表情。

(//∇//)こんな表現もできてしまいます。「がびーん」とか「どよーん」みたいな漫符で表現することもできますし、キャラのバックに「ほんわかトーン」や「花」を咲かせることだってできてしまいます。

そうやってあらゆるものを駆使して「感情を伝える」というのが漫画の命題とも言える、読者に対するアプローチです。

『アクタージュ』はその「感情」を伝える、ということがひとつのテーマです。

第1話最初のオーディションで、悲しみを表現するときに、迫真の伝え方をしても一部の人に伝わらなかったり、バカにでも伝わるようにデフォルメしたり、またそうやって演技しながら、今度は本当の自分の感情を読者に想像させていく。

主人公の夜凪景ちゃんによって様々な感情が伝わってくる。

いま読者としてどんな感情を彼女から受け取っているか、確かめながら読むと、倍楽しめると思います。

そしてさらに見事な『アクタージュ』の構造

感情表現は本当に深く、涙を流して直接的に表現することもあれば、能面のような表情を取ることで読者に「今どんな気持ちなの?」と想像させて伝えるような方法もあります。

『アクタージュ』という作品が見事なのは、ストーリー上の特徴として、主人公の夜凪景が「他人を演じている」という設定があります。

そういうキャラクターなので、彼女の本心が誰にも分からない、という状態が常に保たれます。

本心ではどんな気持ちなの? と興味を持たせる、その種の感情の伝え方は、一般的には顔に影を落としたり、背中で語ったり、ロングカットのシルエットや、大きな背景や小物など、感情を伏せることで読者に想起させる手法が多いです。

しかし彼女はこの「常に誰かを演じている」設定があるので、心からにこやかな笑顔をしてそうでも、その実「本当に笑っているのだろうか?」と、どんな顔をしていても「今どんな気持ちなの?」と興味を引かれ続けます。

心からの笑顔なのに笑顔じゃない。

ここが本当に感情表現として見事で、喜怒哀楽のどれとも言えない万感の想いを、読者は体験することになります。

素晴らしい作品だと思います。

唯一気がかりだったのは、分かりやすく本当の感情が伝わるわけではないので、分かりやすさが何より大事な少年誌でどこまで通用するだろうか、ということでした。

しかし今や10巻も超え、大人気の作品です。このような作品が認められるのは、漫画家としてもとても嬉しいことですね。

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