映画『鬼滅の刃』 完全分析|大ヒットの本当の理由はストーリーにある(ネタバレあり)
劇場版『鬼滅の刃』無限列車編
なぜここまで大ヒットに繋がったのか。どの記事よりも納得できる解説を目指します。
こんにちは、東京ネームタンクのごとうです!
ついに観に行ってきました、東宝シネマズ。僕が観に行った時点で興行収入は100億円を突破。週末では150億円を超えたそうです。
なぜここまでウケたのか、映画を観て疑問に思う人も多いと聞きます。話題になったから話題になるのだ、と偶然論を唱える人も見かけますが、僕は社会的ヒットには必ず理由があると思います。
社会を人と考えると分かりやすい
一人一人の集合体である人間社会。当然その社会が今必要としているもの、求めているもの、というものがあると思います。社会を一人の人間と例えると分かりやすいかもしれないですね。
必ず受け入れられる作品と、受け入れられない作品がある。今の時代に男尊女卑を良いものとして描く作品があったとしたら確実に炎上し、受け入れられないと思います。
その逆で、求められるものもある。社会的ヒットになる作品は必ずその背景に社会の需要がある。
たとえば2016年の「君の名は」「シンゴジラ」
2011年の震災から5年が過ぎ、目を背けたくなる現実を乗り越えて、もう一度現実を見ていこう、向き合っていこう、という社会の想いがその時期にあったと思います。両作品共に、当時のその感覚がシンクロしていると思います。
前者は隕石で失われた世界から、後者はゴジラで壊滅した世界から。それでも向き合っていく、というお話でしたよね。
『鬼滅の刃』はもっと分かりやすくもできた
ストーリー的に考えると『鬼滅の刃』はもう少し分かりやすくもできたと思います。ここからネタバレです!
今回の「無限列車編」主人公の炭治郎が、ほとんど何も得ることができないまま終わります。
ストーリーというのは最もシンプルに言えば「主人公が何を手に入れたか」を描くものです。
もしそこを分かりやすくするなら、
力不足で、家族を救えなかった苦しみの最中にいる主人公の炭治郎が、ほんの少しだけでもこれからの生き方の指針を得る。
という話にもできたと思います。せっかく強力なメンターである煉獄さんもいるわけですからね。生き方学び放題です。
今回のストーリーは「煉獄杏寿郎の生き様」を描く話と言っても過言ではありません。ディズニーやハリウッドなら、おそらくそこから得たものを強調したと思います。
炭治郎が得たものは何か
でもこの無限列車のストーリーは、力不足で苦しい炭治郎が、さらなる力不足と苦しさを痛感して終わる。明確に得たものが何もない。受け入れられていない。
だからこそ最後、敵に向かって叫びますよね。憤りとやるせなさと不条理を。一切受け止めきれないまま、物語は終わっていきます。
改めて、クライマックスで煉獄杏寿郎と猗窩座の死闘から、炭治郎の心に響いたのはなんでしょうか。
・最期まで諦めず戦う姿勢…
・弱く儚い人間を美しいとする煉獄さんの人間性…
・信じて託してくれたこと…
どれも大事なことではありますが、炭治郎が冒頭から伝えてくる、力不足と家族を失った苦しみの、その答えになるものではありません。
炭治郎にあるのは「僕は何もできなかった」という苦渋の想いだけです。
何かを受け入れられるほど炭治郎たちは成長していない
少年たちの成長の余白を感じるエンディングでしたね。3人が空に向かって叫んで、進むことを誓う。きっとこれから先の未来に、いつか受け止め、答えを得られる日が来るのだと思います。
でも今じゃない。『鬼滅の刃』は連載のクライマックスに向けて「縁」を描いていく物語になります。繋ぎ紡いでいく。しかしまだ「無限列車編」は単行本で言えば8巻目。まだその答えにたどり着くには早すぎます。
分かりやすい答えなんてない。何も受け止められない。
それでも前に進んで行かなきゃならない。
「どんなに惨めでも恥ずかしくても」「生きてかなきゃならねえんだぞ」
煉獄さんの生き様も素敵ですが、実は伊之助のこの台詞こそ、この映画を象徴していると思います。
そしてこの想いが、今の時代と完全に一致している
コロナというどうにもならない脅威に晒されている今。一人一人の僕らにできることは、ほとんど何もない。手洗いうがいか、マスクをするくらいしかできない。
そして戦い、死んでいってしまう人から、何も受け取ることができない。その余裕もなく隔離され、人生の最期に残してくれたものをしっかり受け継ぐこともできない。
これはまさに『鬼滅の刃』で描いている状況と全く同じではないですか。
長い戦いが続き、未来も見えない。
みんなの心が折れそうな、これが今の日本の状況です。
でも、それでも…
心を燃やせ歯を食いしばって前を向け
何も受け入れらなくとも、そうやって僕らは生きていかなくちゃならない…!
社会という人格が、今もっとも求めいてる言葉。
それが『鬼滅の刃』にあるのだと思います。
コロナの現代の精神的支柱になっている
YouTubeでさらに詳しく話していて、そのコメント欄にいただいたのですが
「日本人は一つの宗教がないからなんとなくみんなの精神安定の支えといったらアニメ、今はジブリがそういうアニメ出してないから、鬼滅がそれになって、化け物的な記録になった」byとうこうようさんのご友人
この意見に僕も同意です。
よくよくストーリーを読み解くと『鬼滅の刃』は本当に現代のことを描いているんじゃないかというほど今の日本の状況とシンクロすると思います。
みんな挫けたり、心が折れそうになっていることをお互いに知っているから、無意識のうちに映画を勧め合うのではないでしょうか。互いに鬼と戦っていこうと励ますために。
今、日本人は一丸となって古来から続く見えない鬼と戦っている。
映画『鬼滅の刃』はそこに力強いエールを送ってくれているのだと思います。
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